石井 旭舟

石井旭舟

本名は石井宏。昭和27年12月、埼玉県上尾市生まれ。子供の頃から近所の沼でフナと遊ぶ。篠竹の竿に木綿糸を結び、塗り箸を削った浮子にオモリは絵具のチューブ、エサはサツマイモであった。中学に入るとサッカーに熱中し、高校ではサッカーの特待生となったため釣りから離れるが、18歳の時、大きな転機が訪れた。家業が精肉店だったことから修行に出された肉問屋の番頭さんが鈴木高尾氏(権現堂幸手園の創業者、関東へら研)、更に小売業の勉強で御世話になった精肉店の入る丸正ショッピングセンターの御子息が藤田保氏(関東へら研)だったのである。

関東へら鮒釣研究会入会

 お二人に誘われて釣行を重ね、昭和46年、上尾まこも会(日研上尾支部)へ入会。初めて参加した1月例会(三島湖)で18尺+2尺のバカ、エサはバラケにオカユ…殆ど初心者状態でありながら、並んだベテランの高尾氏に勝ってしまう。同年年間6位、翌年には年間優勝。

保氏の従弟にあたる藤田東水氏(関東へら研第二代横綱)の指導を受けて腕を磨き、やがて上尾まこも会を離れ、昭和50年関東へら研へ入会。翌51年にはサンデー51クラブを立ち上げる。

 此の頃は権現堂幸手園に通い詰め、殊に冬場のバラケにオカユでは「無敵」と呼ばれた。関べら入会6年目の昭和56年、初の年間優勝。

昭和56年初の年間優勝。和田敬造のスクラップブックより

3連覇を決めた平成元年は2月例会でトップに立ち、途中逆転されたものの、7月例会で再逆転。以後は着実に釣果を積み重ねて2位と7キロの差で年間優勝を果たす。その報を伝えたのは和田敬造会長。わざわざ本部から舟を漕ぎ寄せ「逃げ切ったぞ」と教えてくれた時には涙が止まらなかった。

年間優勝3連覇して、和田会長(右)に祝福してもらった時はすごく嬉しかった。 
つり人社「“燃える男”石井旭舟のすべて! 」より

3連覇そして横綱昇進

昭和62年~平成元年に3連覇を成し遂げ、役員会における審議を経て第三代横綱へ昇進する。

平成6年関東へら鮒釣研究会会報
第三代横綱トロフィー

関東へら鮒釣研究会会長として

 和田会長の遺言「将来は石井を会長に」および役員会の投票を受けて、平成15年、守屋一郎会長の後を受けて関べら五代目会長に就任。日本経済の下降と共にへら鮒業界も呻吟する中、関べらのために全力を尽くした。令和3年、西田一知会長へバトンを渡すと共に顧問となり、現在も大所高所から会を見守っている。

浮子師「旭舟」として

 仕事は浮子師。30歳の時に「碧舟」銘で知られる石井碧舟氏と出会い、「数ある浮子の中で最も綺麗」と感じた氏の内弟子となるその間、釣りに行くのは碧舟親方の五月へら鮒会、自身の関べら、サンデー51の例会のみ。上尾の家に妻子を置いての日々が続いたが、厳しい修行の甲斐あって1年後に独立。親方と相談のうえ、力強く美しい朝日の「旭舟」を自身の銘と定めた。現在に至るまで、親方の教え「丈夫で綺麗に作れ」「浮子に入っている銘が自分の全てと思え」を大切に浮子を作り続けている。

 釣りに対する情熱から「燃える男」と呼ばれる。その一方「オールマイティーの釣技を身に着け、ポイントとエサに関する記憶を積み重ねていくことが大切」「過去の記憶に捉われず、スパッと切り替える状況判断も大切」と説く。集中力と細かい神経を共に備えているからこその横綱である。

 印象に残る釣り場は数多いが、中でも昭和60年頃、精進湖湖畔荘下での経験は忘れられない。エサ慣れした良型に苦戦を重ねる中、硬ボソの大きなエサを大きなハリで持たせ、長ハリスでへらに揉ませながら食わせる釣りに開眼。釣技の飛躍へと結びついたのである。他にも20代半ばに大型狙いで通い詰めた河口湖、大型ラッシュに湧いた昭和50年代の山中湖、北海道の石狩川旧川、秋田県の八郎潟、和田会長が放流に尽力した富山県の赤祖父湖、透明度を誇る兵庫県の生野銀山湖、高知県の山奥に位置する津賀ダム、現在も名釣り場として知られる佐賀県の北山ダムなど…今も記憶に深く刻まれている。

へら鮒社「へら鮒浪漫街道」より

 プロフィッシャーマンとして江戸川(櫻井釣漁具)、オーナー、シミズ、マルキユーの発展に貢献してきたことも広く知られている。中でもマルキユーとの関わりは40年を越え、釣れるエサの開発に心血を注いできた。現在も「マルキユーに育てられた」の気持を胸に、チーフインストラクターとして後輩たちの指導にあたっている。

 釣り以外の趣味は…少年時代はレース鳩。長じてからはシェパードの飼育、現在はゴルフと金魚。ランチュウにも一時手を出したが、夢中になると競技へ走ってしまうため(註 ランチュウは品評会が盛ん。へら鮒釣り同じく全国大会の番付も作られている)、現在は同じ金魚のオランダ獅子頭および東錦を飼育するにとどめ、優雅に泳ぐ姿を眺めている。

横綱免許を持つ石井旭舟の近影 自宅にて